知見と経験

エラーのメカニズム

作成者: 株式会社ジェック|2022/02/21 7:22:37

『リスクゼロを実現するリーダー学』(石橋明著,2003,自由国民社)という本の中で、著者は、ヒューマンエラーを「当事者エラー」と「組織エラー」に分けている。(p.114)

当事者エラー:「オペレーターが最終場面で引き起こすエラーで、小さいがはっきりしていて指摘しやすく、対策も容易に打ちやすい。したがって、現場はここだけに注目しがちである」
組織エラー:「当事者エラーを誘発する背後要因総ての総称で、潜在していて大きく、指摘しにくく対策も打ちにくい。したがって、見落とされやすい。安全管理者は、この組織エラーに注目しなければ、同様事故の再発を防止することはできない」。

事故の多くには、当事者エラーが存在するが、その背景に組織エラーの要因が隠れているということだろう。
それは、たとえば「陳腐化したマニュアルであるとか、ずさんな雰囲気といった要因」。さらに、「その背後には、組織の厳しいポリシィがあって、過酷なノルマが管理者に課せられていて、管理監督業務を満足に執行できないとう事情が潜んでいるかもしれない」とも書かれている。(同p.115)
組織エラーの背景は、まさしく「安全文化」そのものではないだろうか。

当事者エラーへの対策は、あらゆる業種、業態でしっかり講じられていることは多い。
一方で「組織エラーに対するシステムアプローチは、システムエラーの規模が膨大であること、起こりえる大惨事の総ての筋書きを予測することが不可能であること、などの事情から意外に進んでいない」と書かれている。(同p.121)

つまり、安全文化は、見えないがゆえにつかみにくく、対策を講じにくいということだ。

現場最前線の従業員にインタビューをしていると、エドガー・H・シャイン説
「背後に潜む基本的仮定」が見えてくることがある。
(『企業文化~生き残りの指針』p18,金井壽宏・小川丈一・片山佳代子訳,2004,白桃書房)

あるプラントでは、「従業員、協力会社間の仲が良い」ことが文化の根本にあることが見えてきた。プラントが比較的新しく、建設当時からのメンバーが多く、相互の交流が盛んだった。結果、権威勾配は弱く、お互いに言うことを言えるよい状態にはあった。
一方で、緊張感に欠け、未知のリスクに取り組むような雰囲気をつくりづらい傾向にもあった。安全に対する内部評価も高くなりがちだった。

問題はここからで、「そのような状態にあることを自ら気付くこと」が重要になる。
「緊張感ないよね」と他社から言われても、まず、受け入れられない。
定量・定性調査の結果を受け入れ、自ら「組織エラー」の背景を発見しない限り、
改善には向かわない。外部からは、そのためのファシリテーションはできても答えを与えることはできない。
自ら気付き、変えていく組織になれるかどうか、ここがポイントだ。

2022/2/10ジェックメールマガジンより