経営者

トップが現場に行く重要性

「トップが自らあるべき姿を示し、実践してみせる」小林一三にみる優れた経営戦略、経営思想。


2021年のNHK大河ドラマは、渋沢栄一が主人公だ。
もしも次に経済人を主人公にするとすれば、小林一三ではないかと思う。
渋沢栄一と同じように、豪農の出身であり、阪急電鉄、宝塚歌劇団、第一ホテル等を作った人物だ。映画会社の東宝は、「東京宝塚劇場」から来ており、これも東京進出の際に作った会社だ。

また、小林一三は経済人であるとともに、短い期間だが、戦前に商工大臣を務め、
終戦後には公職追放になるまで、戦災復興院総裁を務めた政界の人でもある。

実業としては、鉄道を引き、沿線に住宅地をつくり、ターミナル駅には百貨店、
都会の反対側のターミナルには、映画館や温泉などの遊興施設を作り、住民の
生活を囲い込むという日本の私鉄の経営モデルを作ったことで有名だ。
これを「小林一三モデル」と言う。

このような、先見の明のある鉄道経営戦略を持っていたことで有名ではあるが、
同時に優れた経営思想の持ち主でもあったと思う。

今もそうなのかわからないが、阪急電鉄の給料袋には、下記のような「五戒」が
書いてあると聞いた。
一、吾々の享(う)くる幸福は、御乗客の賜なり。
一、職務に注意し、御乗客を大切にすべし。
一、其日になすべき仕事は、翌日に延ばすべからず。
一、不平と怠慢は健康を害す、職務を愉快に勉めよ。
一、会社の盛衰は吾々の雙(双)肩にあり、極力奮闘せよ。

「顧客第一」、「仕事を楽しむ」、「職務に忠実」等と言い換えられそうだが、これを昭和の初めから掲げているのだ。

小林一三は、運転士や車掌の制服を着て、よく電車に乗っていたという。
「終点に近づくと棚の上の荷物を車掌がおろしてあげたり、混んでくると客に詰めあわせてもらって子ども連れの女性客を座らせたり、きめこまかい気配りを命じた」(『小林一三 時代の十歩先が見えた男』p.120,北康利著,2014,PHP研究所)。

今も、阪急電鉄では、本社勤務の運輸系社員は、制服を着て通勤する。当時の小林一三と同じように、通勤時は運転台のそばに立ち、決して座席に座ることはないと聞く。
現場でトラブルがあれば、本社からすぐに駆け付け、現業の社員と対応に当たる。

よく、行動指針やあるべき姿といったものが現場に浸透しない、実践化されないという話を聞く。
トップが自らあるべき姿を示し、実践してみせる。
それが、一番の解決策だということを小林一三は知っていて、実践したのだろう。

 

2021/9/30ジェックメールマガジンより


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