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部下を「上司依存」にさせないマネジメント

上司が部下に、あれもこれもと口出しすると、部下は「自分で考えるより、上司の指示に従っていた方が無難」という保守的な心理になるとともに、心の中では「自分のことを認めてくれない」「自由にやらせてくれない」と不満をくすぶらせてしまい、モチベーションが下がります。結果、自らチャレンジすることが少なくなります。部下がこのような状況では、到底「強いチーム」はつくれません。


評価が悪いのは上司のせい?

期が終わると、その期の人事評価の結果を上司が部下にフィードバックする「フィードバック対話」を行う企業が多いようです。
次の会話は、そんなフィードバック対話での一場面です。

上司:「1年間おつかれさま。これが、キミの人事評価の結果だ。残念ながら、相当評価が下がったね。目標未達だし、仕方ないかな」
部下:「こんなに悪いんですか…」
上司:「今年はもっとがんばってよ。そうしないと、後輩にも示しがつかないからね」
部下:「ちょっと待ってください。私にも言いたいことがあります。このような悪い評価になったのは、あなたのせいです!」
上司:「おいおい、自分の評価が悪いのを上司のせいにするのはおかしいだろう」
部下:(興奮で顔が紅潮している)

一見すると、自分の評価が悪かったことを上司のせいにする、ひどい部下のように見えます。しかし、なぜこの部下は「上司のせい」と感じているのでしょうか?


「上司依存」にしてしまったかつての私

実はこの上司、何を隠そう、前職で営業マネジャーをしていた頃の私なのです。そして、このやり取りはほぼ実話です。
当時の私は、部下に対して「あれも、これも」と口うるさく指示を出すマネジャーでした。
「○○商事に行くのなら、この資科を持って、山田課長に必ず説明をするように」「次の商談には、必ず見積書を持っていくように。ただ、岡田部長がいたら、値引き要求されるから、見積書は出してはいけないよ」といった具合です。
素直で真面目な部下は、その指示に一生懸命従い、努力しましたが、目標を達成できなかったのです。
そのため「あなたの指示通りに動いたのに達成できなかった。これはあなたのせいだ!」という気持ちになってしまったようです。「あれも、これも」と指示を出し続けた結果、部下は上司依存になっていたのです。

「自分で考えるより、上司の指示に従っていた方が無難」という保守的な心理です。
結果的に、自らチャレンジすることが少なくなり、ダイナミックな動きを取らなくなります。

一方、心の中では「自分のことを認めてくれない」「自由にやらせてくれない」と不満をくすぶらせてしまい、モチベーションが下がります。
部下がこのような状況では、到底「強いチーム」はつくれません。


チャレンジングな部下を育てるために

では、部下を「上司依存」にせず、チャレンジングな動きを実現している上司はどのような特徴があるのでしょうか。

①自分が一番有能だと思っていない
部下を上司依存にさせてしまう上司は、「部下よりも自分の方が有能」という感覚が強いようです。
特に、プレイヤー時代に高い成果を上げていた人に多く見られる特徴です。そのため、部下の「うまくできていない」点にばかり目が向いてしまい、「有能な自分が修正してあげる」という感覚で必要以上に口を出してしまうのです。

一方で、チャレンジングな部下を育てる上司は、「部下には、自分にはない強みがある」と対等な眼差しで部下を見ています。

そのため、「〇〇さんの企画書は、本当に分かりやすいね」などと、強みを素直に口に出して認めます。
また、「部下はそれぞれ強みがあって、有能だ」と信じていますので、必要以上の口は出しません。

②60点主義で仕事を任せる
ジェックでは、よく「60点主義」という言葉を使います。
これは、「完成度が期待の60点取れそうな仕事なら、思い切って任せてしまう」という考え方です。
60点程度しか取れないと感じていても、部下を信じて思い切って任せてみると、「上司の期待に応えたい」「自分なりにやり遂げたい」という気持ちが高まり、想像以上の完成度になることが少なくありません。
一方で、上司依存にしてしまう上司は、「100点主義」です。
確実に100点を取れる仕事以外は任せることをせず、自分の指示のもとに仕事をやらせようとします。
その結果、「上司に信じてもらえていない」「やらされている」という意識を高めてしまい、ますますチャレンジをしなくなります。

②部下の状況に応じて、マネジメントを変化させる
部下を上司依存にさせてしまう上司は、誰に対しても同じようなマネジメントスタイルで接する特徴があります。まだ経験の浅い若手にも、一人前のベテランにも「あれも、これる」と指示をしています。むしろ、チームのナンバー2クラスのメンバーに一番口うるさく指示を出してしまう傾向さえ見られます。

しかし、チャレンジングな部下を育てる上司は、そのメンバーの状況を見極め、メンバーに応じてマネジメントスタイルを変えています。「部下には、それぞれの強みがある」と信じて、どのように強みを活かそうかといつも観察しています。そのため、状況が把握でき、状況に応じたマネジメントが可能になるのです。
一方で、上司依存にさせてしまう上司は、「部下は自分よりも無能」と十把一絡げなので、誰に対しても同じようなマネジメントで、チーム全体の士気を下げてしまいます。

自分の思うように部下を動かし、チームを動かせば、成果が出しやすいというのは幻想です。部下の状況を観察し、部下の強みを活かせるようにマネジメントすることが強いチームを作るためには必須なのです。
皆さまが、かつての私のようにならないことをお祈りします。

【部下を上司依存にさせないためのチェックポイント】
□部下一人ひとりの強みを認識している
□60点主義で、思い切って仕事を任せている
□部下のレベルや状況に応じて、マネジメントスタイルを変えている
□指示ばかりせず、部下の話に耳を傾けることを意識している

*この記事は株式会社ジェック「行動人」460号より転載・加筆いたしました。

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