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ビジネスパーソンの悩み解決相談室 経営者編 新規事業意思決定のポイント

新規事業決定のためにはさまざまな調査分析を実施検討されると思います。しかし、調査分析結果だけで決定されるわけはありません。ここでは、決定する際の土台となる考え方をご紹介します。


新規事業の意思決定について、次のようなお悩みが届きました。

Q:「新規事業案を决定する際のヒントを数えてください」

現在、新規事業開発プロジェクトを発足させ、アイデアの具体的な検討を終え、取締役会に提出する新規事業案を決定する段階にきています。この決定は、取締役の一人として私も重要な決定であると考えているのですが、新規事業という性質上、必ず成功すると言い切れるものがなく、迷いに迷っています。

新規事業についての意思決定をする場合のヒントがあれば、教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。(化石燃料関連業界会社役員A)

 

 お役立ち精神と業績魂がカギ

この段階では多くの場合、成否予測のためにさまざまな調査分析を行います。

しかし現実は、そのような分析結果を見れば自動的に意思決定できるのかというとそうでもありません。分析や調査結果を前に腕組みをしてしまう...。まさに産みの苦しみです。

そこで、今回は具体的方法論ではなく、腕を組んで考えていただく時の土台となる考え方を、ヒントとしてご提供したいと思います。

 

 「高志に立ったお役立ち精神」を研ぎ澄ます

新規事業の成功は、その構想の良さだけで決まるのではありません。構想を実現させるのは、経営者とともに歩む社員であるメンバーです。成功への道のりは、決して簡単なものではないでしょう。その困難を乗り越えるには、事業にかかわるメンバーが本気になれるものであることが必要です。

新規事業成功に向けての、その真摯な努力を引き出すカギ。それは、その事業にどれだけの志が込められており、どれだけ社会の役に立つものか、という点にあります。こんな表現をすると、崇高で難しいもののように感じるかもしれません。

しかし、Aさんの会社のように創業以来立派に成功してきた企業の中には、社員一人ひとりの中に脈々と受け継がれてきた「お役立ちの遺伝子」があります。その精神が土台となって、幾多の困難を乗り越えて今を創っているはずです。そのお役立ち精神に火を付ける事業であること。それはステークホルダーの支持、協力を得るカギにもなります。

ですから、意思決定の際には、Aさんご自身の中の「高志に立ったお役立ち精神」を研ぎ澄まし、候補となる事業案はどのような未来社会をつくることにつながる事業なのかを鮮明にイメージし、その社会は、社員の中にある「お役立ちの遺伝子」を奮い立たせる社会なのか、という視点から事業案を見つめていただくとよいと思います。

 

長期を見据え、より大きな業績を追い求めようとする業績魂

新規の事業構想を意思決定する場合、業績を判断の基準にすることは当然過ぎる話であると言えます。だからこそ特に心掛けるべきことは、目先の業績というのぞき窓から新規事業案を見ないようにするということです。

経営者は、常に当期の利益を求められます。しかし、その視点に立つと、新規事業案のほとんどは当期利益には貢献しないものばかりに見えます。そしてそれが、新規事業案に対する検討の意欲を削ぎ、未来の可能性を閉じることにもなってしまいます。したがって、企業の体力という前提はありますが、長期的な視点に立ち、その事業案の未来像を思い巡らすことが必要です。

そして、さらに大きな業績に結び付けようとする業績魂をもって、現在の事業と相乗効果を発揮するボイントはないか、そんな目で見つめることも大切です。

 

不確実性を受け入れその成功に賭けようとする信念と勇気を持つ

調査、検討を加え、その有望性を確認でき、社員のお役立ち精神をかき立て、大きな業績を期待できる案。それが企業として取り組みたい案であると言えます。

ここまでくると、最後に乗り越える課題は「不安感」です。新規事業は、それが必ず成功すると保証することは誰もできません。未来についてすべてを把握することもできません。したがって、この事業は本当に成功するのか、と考えても答えは出ない。それが実際です。

そこで大切なことは、「この事業は何としても成功させる」という信念、そして不安感を引きずりながらも踏み出そうとする勇気です。

最終的には、信念と勇気、このことを、新規事業についての意思決定の支えとしてください。

今回のご質問は、まさにAさんの企業の未来にかかわるお話です。より良い未来に向けて、スタートのヒントにしていただければ幸いです。

 

弊社機関誌「行動人437号」より転載・加筆しました

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